INTERVIEW 水からはじまるものがたり
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龍泉洞のある町・岩泉町。町の93%が森林であり「酸素排出量日本一のまち」でもある。町の人々が「神様の水」として大切にしてきた龍泉洞の水は、どんなものを生み出してきたのか。岩泉ホールディングス株式会社の代表取締役社長・山下欽也さんにお話を伺った。
山地が多い岩泉町ならではの景色。乳牛の仔牛を酪農家から預かり、放牧して育てる「牛の幼稚園」こと大牛内育成牧場。広い空の下思い思いに牧草を食む牛たちの姿は、とても幸せそうだ。
龍泉洞の水は神様の水。そして、宝の水なんです。
岩泉を象徴する「宇霊羅山」。アイヌ語で「霧のかかる峰」に由来したこの山には、麓から龍が飛び出し、泉が湧き出て龍泉洞が誕生したという伝説が残っている。龍泉洞には透明度の高い地底湖があり、一日に1万7千㎥が湧き出ている。この水は町の水道水に使われているというから驚きだ。 「龍泉洞の水は『神様の水』。一口飲めば3日長生きすると町の人たちは大切にしてきました。当社の前身、岩泉産業開発では昭和60年から龍泉洞の水をミネラルウォーターとして販売しています。当時はミネラルウォーターが一般的ではなかった時代ですから、よほど自信があったのでしょうね」。
岩泉ホールディングス株式会社の代表取締役社長・山下欽也さんは、岩泉出身。入社前は地元JAの職員だった。岩泉ホールディングスは令和元年に岩泉乳業株式会社、株式会社岩泉産業開発と合併した経緯がある。 「岩泉町は山地が町の93%を占め、地形的にも稲作などには向かない場所で、古くから小さい酪農家が点在していました。昔はJAが酪農家から生乳を集荷し、大手乳業メーカーへ納入して終わりでした。このままでは若い世代が酪農に未来を感じられないという懸念がありました。時代的にも六次産業化が積極的に進められていたこともあり、町に製造・販売の機能を持った場所が求められていました。岩泉の将来を救ってくれるんじゃないかという期待を背負い、岩泉乳業は平成16年に華々しいスタートを切りました」。
しかし、乳業業界はそんなに甘くなかった。設立して5年目で累積赤字は約3億円。JAの職員として計画段階から関わり、町民や酪農家の思いを知っていた山下さんは、思い描いた未来を諦め切れず、平成21年に代表に就任した。そして今では代名詞となった1キロ入りのアルミパウチの岩泉ヨーグルトを売り込むため、奔走した。業務用に目をつけ、朝食バイキングで採用してほしいと、ホテルを中心に営業を行ったという。 「売り込むときも『龍泉洞の水で育った乳牛のヨーグルトです』と営業して いました。実際に食べた方からの問い合わせが増え、ECサイトの売上が増加しました」。
アルミパウチヨーグルトの快進撃により、累積赤字は解消した。山下さんにとって、岩泉の水とはどんな存在なのだろうか。 「岩泉の水は、龍泉洞の水。この町のアイデンティティーです。町の皆さんは排水にも気を使い、きれいな水を守ろうとします。それなのに乳製品工場から濁った水を排水するわけにはいきません。工場ではフィルターを使い、丁寧にろ過して濁りのない水にしてから排水しています」。
同社では乳製品の他にも、短角牛や畑わさびなど、町の素材を活用した商品開発を行っている。龍泉洞の水からは飲料水のシリーズ以外に、化粧品やオーラルケア商品も開発している。 「この地域の人たちが昔から大切にしてきた水が、さまざまな素材の源になっているのは間違いない。この先も町が潤い続けられるよう、発想力と行動力を大事にしていきたいですね」。- 1、各牧場からやってきたばかりの仔牛たち。離乳が終わると受け入れられるようになる。
- 2、龍泉洞のそばを流れる清水川。石灰岩層を通じて湧き出た水はカルシウムが豊富でおいしい水に。
- 3、MLBプレイヤー・大谷翔平選手も大好きと公言する「岩泉ヨーグルト」。アルミパウチの中で発酵させており、濃厚でもっちりとした食感が人気。
岩泉ホールディングス株式会社
下閉伊郡岩泉町乙茂字大向23-2
☎︎0194-32-3008
https://company.iwaizumilk.co.jp/